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にわかに議論が盛り上がってきた水道事業の民営化、各国の状況について調べてみた




世界的に見れば水道事業の民営化は珍しくなく、古今東西様々なデータと議論が存在する。ヨーロッパの多くの国では水道は民間事業から始まっている。後発工業国の日本では水道は初めから公共事業だったので今まで気にしてなかったのだなという印象を受けた。

しかし民営化するべきか、公共事業とするべきかは議論が分かれている。民営化によって投資が活性化され、水道網が広がるという意見もあり、マニラ(フィリピン)、グアヤキル(エクアドル)、ブカレスト(ルーマニア)、コロンビア、モロッコ、コートジボワール、セネガルなどでは実際に成功している。

一方水道事業の民営化は水道料金の値上げにつながり、公共の利益よりも運営主体の利益が優先されるようになるという指摘もある。水資源を私企業にゆだねるのは人間の持つ水に対する権利を侵害するものだという主張も存在する。コチャバンバ(ボリビア)、ダルエスサラーム(タンザニア)、ジャカルタ、ベルリンの民営化が失敗例として挙げられる。

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民営化の形態


注意したいのは、国内全土で水道事業の民営化を達成している国は稀だということ。恐らくチリとイングランド、ウェールズくらいしか無いだろう。水道事業による利益の上げやすさというのは地理や気候、人口動態に左右される。公が赤字覚悟で責任を負わなければならない例が必ず存在するということだ。すなわち中央政府が鶴の一声で民営化を進めるべきではなく、ある程度地方自治体にゆだねるという形が望ましいし、また多くの国がこのような形をとっている。

完全民営化: 完全に市場に任せる形。どこかにあるのだろうが、採用されている例を見つけられなかった。
コンセッション契約: 民間がインフラ投資まで責任を負う。30年くらいの独占権が与えられるというイメージだ。
リース契約: 行政がインフラ投資に責任を負う。行政が施設を貸し出すという形。アフェルマージュとも呼ばれる。
運営契約: 施設と水道料金は公に属する。雇われ店長的な民営化といえる。

民営化の方式としては、コンセッション契約が一番多い。次に多いのがリース契約で、フランスやフランス語圏アフリカに多い。サウジアラビア、アルジェリア、アルメニアなどは運営契約だ。公的資本を入れる形での株式会社化(日本郵政に近い民営化)はスペイン、コロンビア、メキシコに例がある。

各国の例


日本、カナダ、エジプト、パキスタン、北欧諸国他多数の国が水道事業を完全に公共事業としている。ニカラグア、オランダ、ウルグアイなどは民間の参加を禁じている。

フランスは主にリース契約という形で水道事業の60パーセントが民間にまかされている。19世紀の後半、フランスは水の値段の高さとサービスの局所性を嫌い当時の2大水道メジャーを国営化した。そういうわけで1936年当時フランスの民営化率は17%だったが、おもしろいことに2000年までに80%まで上昇した。その後にパリが公共事業化している。またヴェオリア・ウォーターとスエズ・エンバイロメントという水メジャーを抱える水道事業先進国でもある。

イギリスではマーガレット・サッチャーの新自由主義を背景に民営化が進んだ。イングランドとウェールズでは1989年の民営化以降の9年間で水道料金は46%値上がりした(インフレ調整後)が、供給される水の質と川の水質は改善された。営業利益は倍以上になり、投資額も倍近くに伸びた。料金は上がったが、サービスの質は向上したということになる。一方スコットランドでは公共事業体制が貫かれた。

1852年、ドイツに初めて水道を持ち込んだのはイギリスの企業だった。しかしインフラ投資が進まない状況に業を煮やし1873年に公共事業化した。その後公共事業としてやってきたが、1999年に財政上の都合からベルリンの水道事業を民営化した。水道事業の株式の49.9%を民間に売却という形をとった。しかし水道料金は上昇し、2004年はこの1年だけで15%上昇、そのうえで水道事業からの歳入は減った。民営化の失敗例とされることが多い。

フィリピンのマニラでは1997年、東西にわけた形でコンセッション契約で民営化。東では大きな成功をおさめ、以前は人口の26%にしか行き届いていなかった水道がカバー率98%まで改善。しかし西マニラでは2003年に水道会社が倒産、別の企業と契約をし直している。

アルゼンチンでは全体の28%の自治体、人口カバー率60%でコンセッション契約の民営化が行われた。成果は賛否分かれる。水道料金が極端に変化することはなかったが、水質の改善や水道網の拡大を成し得なかった。民営化プログラムの瑕疵ではなく、2001年の経済危機の影響という声もある。

ボリビアのコチャバンバはよく引き合いにだされる失敗例。コンセッション契約で行われた。民営化の際にかなり厳密に水道事業の独占を認める法案が通され、これが禍根を残した。水の販売や、井戸水、雨水の使用が禁じられていた。対照的に、おなじくボリビアのサンタ・クルス・デ・ラ・シエラでは協同組合により水道事業が成功を収めていて民営化が考慮されたことはない。

コロンビアでは地域密着型の民間運営が取り入れられ、一定の成果を収めている。株式の過半数を行政が保有、残りを民間に売却というスペイン方式を採用している。初期には国際水道メジャーが参加していたものの、のちに手を引いている。

結論と私見


まず言えることは、水道を民営化するとほとんどのケースで水道料金は上がる。また、国内全土で完全に民営化という国はチリくらい。やはり気候や地理によって利益の出しやすさが左右されるのだろう、行政が赤字覚悟でやらざるを得ない地域もある。そのため民営化を進めるか否かは、中央政府が出しゃばりすぎずにある程度地方自治体に任せるのがよさそうだ。

ボリビアのコチャバンバを引き合いにだし、水道事業の民営化を極端に恐れる声もあるが、それほど恐れることはないという印象を受ける。イギリスやフランスに学べばそれほどひどいことにはならないだろうし、極端な失敗例はよく研究されているので反面教師にできそうだ。

ただ、民営化によって本当に水道事業の効率化が図られるのかという点については疑問符が残る。日本の場合、この議論の盛り上がったきっかけは老朽化した水道管のメンテナンス費用がファイナンスできないという問題だ。民営化によってこの問題が解決されるにしても、おそらく水道料金が値上がりするだろうこと考えれば、メリットとデメリットは相殺される。民営化がうまくいっているとされるコロンビアでも、行政に任せても同程度のサービスの質は維持できただろうという声がある。成功しているとされるフランスやイギリスでもインフラの質や水道料金を、公共事業として行った場合と比較するのは難しい。

そもそも日本は日銀による異次元緩和で市場に出回る国債が不足していると言われ、消費増税を控え景気の下支え対策の必要性が叫ばれている。建設国債でメンテナンス費用を調達すれば一石三鳥で問題が解決するのではないかと思う。建設国債ならば基礎的財政収支にも影響を与えない。

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じょなさん

Author:じょなさん
元バックパッカーの引きこもり、世界に飛び出す引きこもり。当初は役立つ情報を、と思っていたんだけど自分の興味しか書けないね。

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